映画「かぐや姫の物語」をご覧になった方の多くが、「結局かぐや姫が月で犯した罪って、結局何だったんだろう?」という疑念に駆られるはずだ。
その解は、監督・高畑勲氏があえて映画からカットした"幻のプロローグ"にある。そこには父王がかぐや姫に、彼女が犯した罪と罰とはいかなるものか語り聞かせる場面が描かれていた。
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「(*)月の王のことばは、以下のごときものでした。
お前は、かの禁断の星から帰りし者の、穢れた記憶を呼び覚まし、苦しめるという罪を犯した。そのうえお前はその穢れた星になぜか、憧れを抱いている。これも罪だ。だから、罪としてお前を下ろそう、お前が行きたがっているあの穢れた星へと。
これ、そのように嬉しそうな顔をするでない。お前はあの星ばかり見つめて、私の話などうわの空だが、これは恐ろしい罰なのだ。お前はかの地で穢れにまみれ、苦しみながら過ごさねばならぬのだぞ。
だが、お前がその穢れに耐えきれず、もうこの星にはいたくないと心で叫んだならば、そのとき、お前の罪は許される。お前自身があの星の穢れを認めたのだから。そして迎えが遣わされ、この清らかな月へとお前は引き上げられよう。」
『アニメーション、折りにふれて』P372(高畑勲、岩波書店、2013)より引用
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ちなみに、小説版『かぐや姫の物語』(角川文庫)では、作品の冒頭と結びに、この幻のプロローグが描かれている。
高畑監督はこうも語っている。このプロローグは敢えて映画からカットしたにもかかわらず、その制作意図を無視したかのようなコピーが出回ってしまったというのだ。
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「でもそれ(=幻のプロローグ)は前提で、ねじれて矛盾しているように見えるし、簡潔には伝えにくいから暗示にとどめて、プロローグであからさまに説明するのはやめようと思っていたんです。なのに、「姫の犯した罪と罰」というセンセイショナルなコピーが出ちゃった。」
『ユリイカ 2013年12月号 特集=高畑勲「かぐや姫の物語」の世界』P73(青土社、2013)より引用
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だがこれで本作の謎が全て解けたわけではない。ここでは、かぐや姫の罪と罰に関する残された謎と、それを解く鍵となる監督・プロデューサーの制作意図についてまとめてみた。